紅双華妖眸奇譚 (お侍 習作89)

       〜 お侍extra  千紫万紅 柳緑花紅より
 


 
          




 渋茶で袖がなく、肩先を左右へと突き出させた陣羽織と、動きやすいようにと腰回りや股上にゆとりのある、筒裾の狩袴。昔々の武家や侍の正装によく似たいで立ちであるけれど。内着にした袷
(あわせ)の上、羽織の下に前を開いて引っかけているのは、北軍が着ていた濃緑の軍服に違いなく。ということは、苦労知らずの若く見えても一応は、先の大戦を経験しはした世代ということなのだろか。

 「まったくさあ、
  企みというものは、知る人は少ないに越したことがないって言うのにね。
  昼日中の往来で、旅の芸人一座を取り囲みの、
  そこから誰ぞを掻っ攫って行こうのなんていう、
  目立ってしようがない真似をしようって単細胞な輩まで加わった日には。」

 ひょいと肩をすくめて、これ見よがしに呆れたというお顔を作り、

 「私としちゃあ、これ以上のうんざりはなかったね。
  もしやして邪魔をしに来たのかと、
  そんな頭もなかろう相手へ真剣に疑いの念を抱いたほどさ。」

 まま、彼らのレベルの下手な搦め手を繰り出すよりか、手っ取り早いには違いない。後の責任をまで、彼らには負ってもらやいいだけのことと、そうと思うことで何とか冷静になったのだけれども。そんな回りくどい言いようを並べてから、
「何も街道で大慌てで捕まえる必要はなかった。東雲の宿場に入ったら入ったで、やりようはいくらでもあるのにさ。」
 思考パターンが単純すぎる輩はこれだから。目先のことに振り回されて、結局外れを掴んでしまう。負けて勝つということを知らない、そんなだから負け犬なのだよと。うんうんと自分の論に頷いて見せる所作までが、どこか芝居がかって見える奇妙な男。相手の目論みに落ちたと見せかけ、攫われた振りをしての無抵抗のままに、連れて来られた敵方の塒
(アジト)。片っ端から斬って捨てるという、こちらさんもまた実に判りやすい方法にての突撃を敢行した久蔵を迎えるかのように。その洞窟のかなりな下層部にて現れた彼は、疲れを知らぬ太刀筋に任せ、一味の殲滅をただ一人で手掛けているかのような久蔵の単独行を、きっちり把握していたらしく。なのに、高みの見物を決め込んで、部下にも敢えての対策というもの、何ひとつとして授けてもいなかったようであり。侵入者を見かけによらない腕前の刺客と認めつつ、そうと知らせぬまま、斬られるままにしていたとは。


  “こやつが、大将か?”


 背条こそピンと伸ばしての、それも一種の威容というものか、堂々たる態度で鷹揚さは保っているものの。雲つくような大男でもなければ、筋骨逞しい精悍な偉丈夫でもなく。恐らくは大した腕力でもないのだろうし、もしかすると刀さばきの腕も飛び抜けてはいないのかも。ただ、恐ろしく頭が切れて、とんでもないことを思いつき、それを効率的、且つ周到に進めてしまえる才がある。そしてそれを遂行出来ようこと、重々感じさせるだけの自信があっての威容がただならぬ存在。機転も利くし、場の空気を操作するのが巧みで、人心を掌握する術に長け。それをもって、ちょいと歪んだ思考だの思想だのに偏った者や、はたまた不遇への憤懣や身の裡
(うち)への傷を持て余し、燻っているような者らを魅了し、妖しく惹きつけてやまない。

 「…。」

 そういう人間が、ごく偶に世間へ出來
(しゅったい)することがある。景気が停滞していたり、貧富の各差が偏っての荒んだ世に燦然と現れて、一般の民への啓蒙を掲げて革命を起こすこともあれば。それとは全くの正逆にも、己の独特な“我欲”を満たすため、手段を選ばなかった結果としてそのカリスマ性が発揮されてしまい、周囲の人々が幻惑されての戦さの火種になることもあり。先の長きにわたった大戦の只中でも、そういう輩が幾度か現れては一部の熱狂的な支持者を得たその結果、戦さに乱入して来ては戦況をいたずらに撹乱したり、収拾がつかぬまま非戦闘員や非武装地域にまでの被害を広げてしまった例、枚挙の暇がなかったとも聞く。

 「…。」

 人の価値へも刀という物差しが全てだった久蔵ではあるが、だからといって単なる刺客ばかりを認めて来た訳じゃあない。その一番に判りやすい例が、勘兵衛であり七郎次であり、彼らから…人性とか老獪さとか、人の尋を推し量るにはいろいろな物差しがあることを身を持って教えられたからこそ、

 “…下らぬ。”

 眼前に現れたこの男。少なくとも自分にとってはさしたる値打ちも感じない、むしろ薄っぺらで下賎な存在だと。そうと、あっさり見切ってしまえた。

  ―― ただ。

 暗がりにその輪郭が浮かび上がっていた、壁から棚状に突き出していた壇上から。羽織の裾をひらめかせ、身軽にもヒラリと飛び降りて来た彼はともかく。その後からえっちらおっちら、岩を刻んだものらしき階段を降りて来た、手下らしき男の腕に抱えられている赤子の方を、いかんせん、無下には出来なかった久蔵で。今は泣きやんでいて大人しい、小さな存在。その身に起きていることがどれほど判っているのやら。哀れと思うというよりも、そんな判りやすいことで身動きを封じることが可能だと、そうと断じられたことがちと口惜しい。そうと感じての剣呑な顔をしているのが通じたか、陣羽織の男は、きれいに整えていた黒髪を掌で撫でつけると、ふふんと笑い、

 「良かったらついて来て。」

 命じる訳ではないけれど、恐らくは逆らわないだろという気さくさで。久蔵へ手短に声をかけると、返答も待たずにさっさと歩き出している。連れの手下は、久蔵が進むのを待つ構え。二人で前後を挟むつもりならしく、しかも臆病そうなその手下は、脇差しだろう小太刀を、鞘を払っての握ってもおり。これでは迂闊には動けない。その切っ先が自分に向いているならまだしも、久蔵へのではない殺意。
「〜〜〜。」
 少しでも不審があらば、腕に抱えた赤子へ容赦なく刃を立てるぞと、びくびくしながら警戒していて。こんなまで肝が小さい手合いの臆病さが、選りにもよってこんな形で自分への枷になろうとは、久蔵もゆめゆめ思いも拠らなかったこと。そんな男をこんな役目に残してあったことといい、この頭目、小物と侮ってはならぬほど、実はすこぶる大胆果断な男であるのかもしれない。結構な頭数がいた荒くれ共が、一枚噛ませよと寄り集うだけの何かしら、魅力とまでは行かずとも、彼の言うところの“美味しい話”の匂いをぷんぷんと漂わせていたらしく。だのに、力に任せて企みを聞き出すのではなく、むしろ彼からの指示に従っていたのだろうことは、これまでの経緯から断じても明白で。そんな命令系統にきっちりとした統率が取れていなかったのは、やたら締めつけることで連中から牙を剥かれたくなくてというよりも、彼らなんぞと共にずっとあるつもりはなかったという腹積もりの現れで。

 「…。」

 常日頃は威圧の気配もないままにいての臨機応変が利き、何となったら身ひとつでもうまく立ち回れるという狡猾さにこそ自信がある。そんな奸計まみれな人物であるらしいことは、久蔵にもようようと知れた。何せ、そういう手合いの最たるものと、一戦交えたことがある身だ。百機はいただろう雷電や紅蜘蛛を従えて、弩級戦艦にて押し寄せたそやつも、口八丁と陰謀で、一介の農民から商人へ、それから上り詰めての天主とまでなった男。ああいう勝ち方もあるのだというのは判ったが、ただそれだけ。久蔵にはあまり感慨も沸かせない存在に過ぎなかったのもまた事実であって。

 「ねえ、君は知っているのかな。この妙剣山は禁足地って言われているそうでね。」

 久蔵をどこへ連れて行きたいものか、こちらへ背中を向けたままの歩きながらに、陣羽織の男は語り始めた。
「昔からの話ならしいよ。こんな深い洞窟があったりして危険だからか、それとも、軍人崩れの浪人とか、野伏せり、だっけ? そういった乱暴な流れ者が潜伏しているからってのもあったんだろうけど。周辺の農民はその謂れをこそ馬鹿正直にもいまだに守ってたみたいでね。だからこそ、私たちは易々と此処へ入り込めたのだがね。」
 捕り方も来はしないほど、本当に人が寄らないところであるらしく。これはいいやと気に入ったと。そんな僥倖を喜んでの軽やかな口調は、まるで歌っているかのようで。
「でもさ。禁足地なんて仰々しい言い方されるには、やはりそれなりの理由がある筈だと思わないか? 単に危ないと告げるだけでは侵入や接近を防げないから、恐ろしい罰が下ると脅しをかけた。そうまでして近寄るなとしたからにはそれなりの理由があるんじゃないかって。ホントの事情が話せないならそれなり、それを糊塗する事情とやらが語り継がれているもんじゃないのかなって。」
 薄暗い隧道をどんどんと降りていってもなお、篝火がところどこに途切れず焚かれているところを見ると。こうまで深い岩盤の底だというのに、空気の流れは確保されているらしく。虚ろな洞窟に響くのは3人分の足音と、先頭を行く男の話す声だけ。その声がふと、肩越しのものではなくなって、

 「関心なんてないって感じだね。」

 久蔵があまりにも返事をしないのへ、わざわざ振り返って来たらしく。そんな言いようを差し向けて、
「私だってそんなことへ気が回るような酔狂な男じゃあないんだが、アレを見てしまった以上はネ、どんなささやかなヒントでも欲しくなってサ。」
 ここいらに伝わる伝承から何から、片っ端から漁っての調べて突き合わせ。若い頃にサボった“つけ”かと思ったくらい、そりゃあもううんざりするくらいの書物を首っ引きにしたもんでね…と。わざわざ立ち止まっての男の言いようへ、白い額へ淡い陰を落とす前髪の下、久蔵の細い眉がほのかに寄り合う。回りくどい奴だからと、話半分に訊いていただけ。だが、このいかにもな態度は何だろうか。彼らが狙っていたそもそもの相手は、自分と同じ赤い眸の若侍。その、シズル殿本人でなくとも用は足せるとこやつは言ったが、此処が禁足地云々というのはそれと関係のある話だったというのだろうか。

 「…そう。私と、それから私と一緒に此処へ落ち伸びた最初の仲間は、
  此処で大変なものを見つけてしまった。」

 久蔵の動かぬ表情から、だのに何事かを読み取ったらしき陣羽織の男は、少しずつ少しずつ、話を核心へと掘り下げてゆく。全部聞いたら共犯も同じで、もはや後戻りは出来なくなるよと搦め捕られてしまうよな。そんな話法だと とうに気づいていたけれど、

 「…。」

 そうであろうとなかろうと。口の重たい自分にはどうせ、鮮やかなディベートを繰り広げられるような真似は出来ぬのだし。何がどう転んでも、この自分に出来ることと言ったらば…それを握っていることへは咎めがないのが思えば不思議な、刀を振るっての窮地脱出しかないのだし。

 “やや一人でそこまでの枷に出来ると思われておるものか。”

 現に言いなりも同然な自分を省みて。浅い緋色の口元はそのままに、その内心にて苦笑を零す。あのお人よしと同行するうち、随分と人性が甘くなったものよと思ったと同時、いやいやあのタヌキは、単なるお人よしに非ずということをも思い出し。

 「…で? 俺を何の役に立てたいというのだ。」

 おためごかしも婉曲な物言いもたくさんだと、彼が所望の切れ長の赤い眸、ふっと鋭く眇めて見せれば。
「そうそう、それだったね。」
 男のほうでは楽しげな笑みにて、やんわりとその目許を細めて見せて。折り曲げた人差し指の節を口元へと運んで、ふふと甘露な何か、反芻して見せてから。


  「私たちが見つけたもの、まずは見てもらおうかな。」


 あくまでも、鷹揚そうな余裕の笑みを浮かべたつもりの彼だったようだが。引き上げられた口角が片方だけ、異様に歪んでの醜く引き吊れて見えて。やっとのことその本性に巣喰う悪鬼の片鱗、表へ出したようにも見えたのだった。






  ◇  ◇  ◇



 本来の標的であったシズルと取り違えたまま、彼らのお仲間である久蔵を浚っていったのは、鋼筒
(やかん)という機巧躯で。野伏せりの仲間として数えられてもいたそれだが、正確には自身の体を改造したものではなく、搭乗者がいてそれを乗りこなす、言わば乗り物の一種。勘兵衛が手ごわい侍だからと見越したか、奇襲担当班の陣営にも数体紛れていたそれを、平八が手早く修復し。操縦は手慣れた彼へと任せての、自分は自在腕へと脚を掛ける格好で、遠い道程を運ばれていた白い衣紋の壮年殿。蓬髪をたなびかせるほどの速度に翻弄されることもなく、道なき道に転々と光る、黄緑の蛍光色を辿るように追ってのどのくらい翔ったか。

 「…お。」

 月光に照らされての褪めた色合いに染まって躍る、金の穂並みは茅かススキか。風に揺らされたそれとは微妙に異なる動きを呈した株があり。視線の端、それへと注意が走った勘兵衛。今は構ってはおれぬと見過ごしたかに思えたすれ違いだったが、

  ―― き…ん、と。

 いつの間に飛び降りたものか、数間ほど先へ進んだ鋼筒の軌跡の陰から繰り出されたる、勘兵衛の大太刀からの鋭い切っ先を、

 「おおっと、これは危ない。」

 すんでのところ、自分の得物の鍔にて止めたは。煌月からの光に晒され、銀の髪が白くも見える、相変わらずに恰幅のいい壮年殿。見覚えのあり過ぎる相手とあって、勘兵衛もハッとすると刀を引いた。

 「五郎兵衛ではないか。」
 「ご無沙汰でござったな、勘兵衛殿。」

 だからと言ってこのようなご挨拶とは。某
(それがし)の腕がなまっていたならば、只事では済まなんだとお道化たような言いようをし、からから笑った豪快さもそのままの、頼もしきお仲間、片山五郎兵衛その人で。大振りの軍刀を鞘へと戻すと、目許を細め、
「ヘイさんが業を煮やして、勘兵衛殿らの方へ向かってしもうたと聞いて。ならば某は、気になっておった伝承の大元、禁足地を訪ねてみようと思うてな。」
 そうと告げて、あたふた戻って来た鋼筒の向かっていた先をと、真っ直ぐ見据えた精悍な横顔。からかうように囃し立てるは、背景にどよもすススキの波と、つんと素っ気ない夜陰の中をば駆け抜ける、つれなくも冷たい夜風のうなり。

 「そういえば、双炎とかいう宝の話を追っていたそうだが。」
 「うむ。単なるおとぎ話にしては、久蔵殿へまで重なる物騒な符合が気になっての。」
 「その久蔵殿が、選りにもよって攫われてしまったのですよ。」

 ぱかり、蓋が開いて、鋼筒からお顔を出した平八の付け足しへ。五郎兵衛殿がう〜んと唸ったものだから。
「どしましたか?」
「いや…うむ。」
 鋼筒の縁から身を乗り出して来て、案じるようなお声をかける平八へ。そして…やはり思慮深い眼差しを向けてくる勘兵衛へ。言葉を選んででもいるような間合いを経ての、それから。彼が渋々のように口にしたは、


  「妙剣山へ封印された妖異というのがな、
   どうやら此処数年、復活したかも知れぬというような話を聞いたのだ。」

  「…はい?」





  ◇  ◇  ◇



 途中から少々傾斜が急になった隧道は、だが、先程の広間からはさほども進まぬうちに終点へ至ったらしく。そこもまた、地中の岩盤の下とは思えぬほどの、高い天井を蓋にした広々とした空間であり。それこそが地下である証しか、何とはなく足元がひんやりと薄ら寒い。日頃に着慣れたいつもの衣紋ではないせいかとも思ったが、考えてみれば…袂の長い振り袖に襦袢に袴と、今の恰好の方が布の量も多く、日頃よりもたっぷりと着込んでいるはずで。此処にも篝火が焚かれているが、では、それに要りような新鮮な風はどこから来るものなやら。自然にこうなったものとは思えない、平らかな石の床を何とはなくの見下ろせば。そんな久蔵の背後から傍らを…刀の間合いどころじゃあないほどの大々々回りに遠ざかっての、擦り抜けてゆく気配があって。滑稽なほど腰の引けた足取りで、自分の御主の元へと駆け寄るは、赤子を抱いたままでいた小心な手下の男。ということは、此処が終点、目的地ということか。男の行方を追った久蔵の視線が、そのまま辿り着いた格好となった、どうにも鼻持ちならぬ陣羽織の男。さして乱れてもない髪を、再び掌で撫で上げての整えると、

 「さあ、これをご覧うじろ。」

 その同じ手をスルリと、その身の前へと送り出すようにし、腕ごと優美な曲線にて繰り出しての、大仰なご披露のポーズを取って見せる。男と久蔵との間には、もともとの間合いが10mちょっとはあっただろうか。その狭間の床を見よというような所作だったので、警戒は解かぬままながら、それでも視線をその通りに床へと流し、相手の足元までを辿りかけたその途中。

 「……………な。」

 途中、一度もその歩調が変わりはしなかったので、代わり映えのしない平坦な床だと思っていたら。その狭間の床にだけは、連子窓のように柵状の切れ込みが入っており。丁度そこだけが、まるで何かの檻の天井のようになっている。こちらに居ながらにして下層部を見通すことが出来るようになっているのだが。

  ―― その真下にあって、そちらからこちらを睥睨して来る存在がいて。

 滅多なことでは動じない、金髪痩躯の双刀使いの鉄面皮が、判りやすくも弾かれての瞠目したほどの何物か。地響きをともなっての、低く唸って蠢く“それ”は。こちらに人の気配があるのを察知したのか、じわり、寄って来るとその毛深い顔を格子状の床へとくっつけて来るのだが。その大きさが、何とも尋常ではない巨大さであり。敢えて近いものを探すなら、久蔵には野伏せり退治でようよう馴染みの、機巧躯の雷電くらい、というところだろうか。但し…こちらはどう見ても生身の存在であるらしく、

 「ここいらに伝わる伝承の中では“猩々
(しょうじょう)”という名の妖異。
  どうだい? その赤い眸は。
  伝承の中では“双炎”と呼ばれているのだそうだよ。」

 一体、何をもっての“お宝”としていた彼らだったのか。どんなに考えても辿り着けなかったそれが、判明した途端に絶句を誘うこととなろうとは。

 「東雲の家系に生まれることがある赤い眸の男子。
  それが生まれたなら、世間に出してはならぬとされているのはどうしてか。
  寺預かりにせねばならぬのはどうしてか。
  この妖異と、関わりがあるとは…思わないかい?」

 何が嬉しいのか、少ぉし掠れた声は酔ったようななめらかさ。愕然とする久蔵を、それをこそ見たかったと言わんばかり、目許が細くなってのっぺりとした顔が、そちらこそキツネか何かの妖異のようで。北軍の制服をまといし、謎の山師は、一体何を望んでいるのか。黄泉もかくやという昏き地の底にて、悪夢はいよいよその幕を開いたばかり……。









←BACKTOPNEXT→


 *やっとのことで、赤い眸の謎、判明です。
  選りにもよって“キング○ング”が出て来ようとは、
  どなたも思わなかったでしょう?
(…威張れることかい)


戻る